撮影場所&日;長野県飯田市南信濃 平成17(2005)年12月3日上島白山神社、同10&11日木沢正八幡神社
20年も前、飯田ICから東の山中へ1時間も走った大鹿村へ行ったことがあります。南朝贔屓の私は、南朝第一の忠臣である新田党と連携しながら賊軍足利に抗した、後醍醐天皇皇子の宗良親王の大鹿村の拠点を訪ねたのです。伝・宗良親王墳墓は大鹿村、愛知県北設楽郡や遠州にもあるなどはっきりはしませんが、いずれにせよ宗良親王は三信遠地域で活動していたわけです。その要路は秋葉街道ですが、生活路のみならず戦国時代には武田軍の南進に軍馬が通るなど、戦略路でもありました。その要路の途中の和田に本拠地を置いたのが遠山氏で、平安時代後期の荘園の拡大による豪族が遠山氏の祖です。荘園の拡大により人々の往来が盛んになると、密教が流入し、修験者も多くなりその拠点も築かれたようです。その遠山郷に冬場に行ってみると、午後3時には周囲の山々に太陽は遮られて、早くも“かはたれ時”となり、日照時間の短さに驚きます。そんな太陽の力だけでなく、冬の厳しく全ての生命力が沈滞する霜月の頃、人々が魂の再生と復活を願うのは理解できます。温かい湯を使うことは厳冬を暮らす民にとって、食に住に生きた心地がする瞬間であったことは、今でさえそうですから、生活環境の劣悪だった昔なら尚更だったでしょう。 |
≪参考文献≫ (※)井上隆弘【霜月神楽の祝祭学】岩田書院 【霜月祭り】南信濃村教育委員会 【神社と面】 〃 |
上左右【神名帳】(木沢) 八社(滅亡した遠山氏一門の霊と、在地の神の習合した神)と八百万の神々を舞殿に招く。禰宜が拝殿に安置されていた神名帳を捧げ持ち、氏子総代が奉読する。 |
上左右【湯立】より五大尊。共に木沢にて。右は【鎮めの湯】で。 五大尊という印契を結ぶ。すなわち東西南北中央を司る明王に、我が身に害が及ばぬように守護を願う身固めである。呪的バリアーで自分を守ってから神々や諸霊を勧請する。右写真の【鎮めの湯】では、【中祓い】で招いた神々にお帰り戴いた後、【面】で遊ばせる遠山氏の死霊を再度降臨させる前に湯立てを行なう。この後は、死霊鎮魂の神楽となり、それを『後夜の遊び(※)』という。 |
上左右【湯立】より、左は湯木舞、右は神拾い。共に木沢にて。 「先湯七立」といって、在地の神と遠山氏一門の霊が習合した神に献じる湯立て。“湯木”という御幣の束を持って舞ながら竈の周囲を周ります。湯木は、左右中央に水平的に動かすだけですが、このように振る単純な反復動作によって、憑霊(ひょうれい)現象が起こるのである。そして、湯木を湯に浸して神を清めて湯を献じるのです。 |
上左右【湯立】共に木沢。 今回の撮影機材は、Nikon D70+Nikon24−120mmと、D70S+SIGMA10−20mmの二台を使ってます。右は白黒変換してUPしましたが、このようなモノトーンによって死の世界が表現できるようにも思います。しかしながら、カラーでもそれが表現できるように、事前にもっと霜月祭りの死霊鎮魂の性格を理解して撮影に臨み、写真を狙ってくればよかったと反省しています。 |
上【天伯の湯】上島。 恐ろしい霊威をふるう天狗の霊が天伯です。ここでは禰宜だけでなく、氏子も村内安寧を願って荒ぶる天狗に湯を献じます。見学者も参加できる唯一の湯立てだったので、私もカメラを右手に、湯木を左手に持って撮影しています。 |
上左【四つ舞】(上島)、上右【襷の舞】(木沢) 扇・鈴を持って、そして剣に持ち替えての採り物舞です。湯立てとは直接の関係はない舞です。四つ舞は、一行事が済むごとに舞う舞とされてます。襷の舞は、【中祓い】と【鎮めの湯】の間に舞われ、破邪の舞と思われます。中祓いで神々にお帰りいただいて、そして再度死霊を降臨させる前に、舞殿を鎮める舞でしょう。 |
上【面】より、秋葉神社(上島) |
【面】上左;奥山半僧坊大権現、上右;猿田彦命(共に木沢) 四人の面形が舞殿で荒れ狂います。狭い舞殿を駆けて、見物人に背面ジャンプして跳び込むと、興奮の坩堝となります。 |
上左【若殿新左衛門】、上右【稲荷】(共に上島) 上左は、滅亡した遠山氏の若殿の死霊面です。考えてみれば、能楽での面も半分以上は現世に未練を残して憤死した怨霊面です。ですが、ここ遠山郷では怨霊が自らの生活に祟りを成す恐れがあるので、面による鎮魂は切実だったわけです。上右の稲荷だって、商売繁盛とは関係ないでしょう、多分。狐は稲荷の本尊の荼吉尼天(だきにてん)の眷属で、荼吉尼天は呪詛に大きな力がある神ですから、たぶん呪い封じの面でしょう、、私説ですが。 |
上【面】より、小天狗・水の王(木沢) 舞殿が静まり返り、緊張が走ります。圧倒的な存在感で、天狗が登場します。熱い竈に足をかけ、熱水を手で撥ね(湯切)ます。 |
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Last Updated 2009-12-29