日本!(お神楽)
No.15 御神楽祭り
撮影場所&日;愛知県北設楽郡豊根村富山、熊野神社、平成18(2006)年1月3日

甘酒のふるまい
(ありがとー)


在住の地から愛知県の最東北部の富山村へ、どのルートで行こうかと迷ったあげく、国道153号線を平谷まで行き平谷峠を越えて新野へ出る。そして山越えで天竜川に出るルートを選んだ。しかし年末と当日の降雪で平谷峠の積雪は思ったより深く、FF動輪の愛車は函館本線の稲穂峠越えをす「るニセコ3号」を牽引するC62型蒸気機関車のように、空転を繰り返しながら必死に登攀した。新野での昼食時間を含めて4時間半、富山には午後2時半に到着したが、雪は無かった。
祭りの舞処となる熊野神社では、「しめのはやし」が終わり、「清めの御湯」の最中であった。神社ではこれまでお会いしながらもお名前を知らなかった方に再会しました。その方は【隠れ里の祭り】という著書を書かれてる山崎氏でした。氏の著書は富山の御神楽祭りを中心的に話を展開しながらも、周辺の神楽圏との関連で歴史的時間の流れの中で記述されてらっしゃり、名著です。すなわち富山村の開郷当時を起点として神楽の取り入れられた時期の推理、そして神楽に影響を与えた山伏熊野修験道の影響、そしてそれに代わった伊勢の御師による伊勢神楽の移入など。歴史という時間の流れの中で里神楽が一人歩きするのではなく、また宗教的な影響だけから考察するのではない。例えば豊臣秀吉の太閤検地(天正15;1587年)の実施により、土豪が没落して代わりに家来など農民の生活の向上と生活の変化が神楽に及ぼした影響など、生産関係の見地からの記述はまるで歴史小説を読むが如く痛快です。御神楽祭りにおいて、舞いの演目の数などのピークは、現存する最古の記録の「元禄本」による元禄13(1690)年以降であったようです。その頃には伊勢神楽は既に移入しており、豊かになった農民が祭りに参加して盛大となり、面形舞も含めて23番程が二日間にわたって舞われたようです。そのうち「元禄本」に記載されているのは15番の神楽事の神事、湯立と湯囃子舞だそうだ。これは神事系を重視して、面形舞が芸能系であると区別しているのであろう。そのことは今日の祭りにおいても、明瞭です。面形舞の「どんずく」の始まる前には拝殿周囲に、提灯が吊るされて華やいだ雰囲気となるが、明らかに場面転換でしょう。山崎氏の著書は、御神楽祭りの発展から転換期へと記述が進む。明治五年の修験道廃止令や神仏分離、そして国家神道による祭神の置き換えなどによる価値観を揺るがす変化、そして現在直面しているお神楽の危機を述べられるあたりからは、読むと切なくなってきます。少子化と過疎という物理面だけでなく、価値観という精神面の変化の中でお神楽がどう存続していくかという時期まできているのだと、読むと実感します。面形舞のように芸能的な楽しみとなる舞いを残しても、湯立てのような神事の削減が近世において行なわれているのも、お神楽の変化の姿です。
今回、私は殆ど白黒写真でUPしました。狙いは二つです。
まず第一に、白黒写真というのは撮影された時間の感覚が希薄になるということ。例えば、白黒映像の時代劇映画を観ると、まるでその時代に実写された映像かのような錯覚さえあります。時間の感覚を希薄にして、「元禄本」の書かれた頃のような祭りの最盛期のイメージを求めました。
第二に、カラー写真を一枚だけ挿入すると、その写真に視線が集中しやすい錯覚があるということ。カラー写真は、「式の舞」ですが、舞手は「天狗祭り」に奉仕した四人が、神様に舞いを奉納すると同時に神威を授かるために舞う、湯立神楽の舞いの真髄であるから、強調したかったです。
数々の問題に直面しながら祭りの演目の削除が行なわれるなら、これまでがそうであったように芸能的な面形舞以外の部分で削られる可能性もありましょう。それでは残念極まりないけど、私には写真で記録するのが精一杯です。

《参考文献》
山崎一司【隠れ里の祭り】【失われた祭り】富山村教育委員会

《現地情報》
開催時間12:00(3日)〜02:00(4日)、駐車場なし(路上)、
売店・簡易食堂あり(うどん等)、休憩所あり

上写真左【天狗祭り】、社殿裏山に氏子が登り、天狗杉の裏で行う。山の天狗が祭りを邪魔しないように祀り上げる祭事という。
上写真右【不動祭り】、不動明王を祀る祠へ参拝する。明治まで祭りのリーダーだった瀧氏が祀った仏尊であるが、神社での祭りなのに神仏習合の残渣がある。

上写真左【権現の湯】、熊野三山の修験道の崇拝仏(阿弥陀如来・観音菩薩・薬師如来)に捧げる湯立てです。
上写真右【宮清め】、「清めの湯」で湯立てされた湯をうたぐらを歌いながら、祭場などに湯を振り掛けて清めていきます。

上写真三枚【式の舞】、床板を打ち鳴らすように激しく足踏みしながら飛ぶように舞う、印象的な舞い。「天狗祭り」に奉仕した舞手による五方を拝する舞いで、上衣を捧げ持つように舞う所作がある。

上写真【伊勢の花の舞(綾笠の手)】、昔は湯立ての前の「湯囃子の舞」であったという。すなわち神事の湯立に属して、湯立の場と湯を清める舞いであったのが、いつのまにか独立した舞いとなったようです。

上写真左【鬼神】、所作は天地創造を現すという伝承があるそうだから、かなり演劇的要素がある。そのような事から面形舞いが、“お能様”と云われるのであろう。
上写真右【兄弟鬼】、授福を村と祭りにもたらす、守護霊的な鬼の舞いです。

上写真左【禰宜とはなうり】、現在の能楽で【翁】は千歳・翁・三番叟によって舞われるが、翁と三番叟に相当する。
上写真右【しらみふくいと女郎面】、神懸りの司霊者と託宣を民に伝える巫女の姿といわれる。


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Last Updated  2009-12-29