私がお神楽に興味を持って日が浅い。僅か半年である。能楽そして歴史への興味の延長線上の接点に、お神楽はあった。 お神楽ということで以前より耳にしていたのは、「高千穂夜神楽」という名前である。名前を知っていたということで、まず開催日を調べたら11月3日に天岩戸神社でお神楽が有る事が分かって、撮影基地にする国民宿舎の予約開始の半年前には予約を入れた。2004年5月のことである。最初に行動あり、であったがその後に調べていくと、“高千穂神楽”は高千穂町内で11月から2月にかけて19箇所の集落の主に民家で開催されることがわかった。 各集落の民家を「神楽宿」として「元締め」さんを中心に、地元民が一年間かけて役割を決めて準備していく・・・。お神楽当日には、その集落の鎮守神様を神事の後に民家である「神楽宿」に神迎えして、徹夜のお神楽が奉納される。そして神送りの神事もする。 このように舞いの芸能ということだけでなく、民間信仰と強く結びついているのが、お神楽です。そうしますと、撮影の最初のターゲットに選んだ天岩戸神楽は集落の民衆主体でないから、ちょっと異質かな、とも心配したものです。 ですが番組には【蛇切り】という天岩戸神楽独自の舞が組み込まれており、地域性が出ており安心しました。 3日当日は、前夜の午後7時から3日早朝4時まで、延岡の北の北浦・三川内神楽を撮影してから高千穂天岩戸まで移動したので、かなり睡眠不足でした。とはいいましても午前10時から午後10時半まで、12時間半しっかり拝見しました。 神聖な舞から俗っぽい爆笑に客席が包まれるユーモラスな舞まで、ほんと飽くことない時間を過ごさせてもらいました。
撮影日;2004年11月3日(午前10時〜午後10時半) |
国見ヶ丘(標高513m);神武天皇の御孫にあたる建盤竜命(たていわたつのみこと)が九州統制の折り、この丘に立って国見をしたとの伝えが名前の由来。天孫降臨された高千穂盆地方面には、秋から初冬の快晴無風の日の出前後に雲海が見られる(11月2日撮影)。 |
(写真左)土着の豪族の鬼八が、外来の天孫系四代目の神武天皇の三番目の兄、御毛沼命(みけぬのみこと)に征服されたところを象徴的に示した彫刻(高千穂神社)。御毛沼命が鬼八を踏みつけている。 高千穂神社の祭神は高千穂皇神と十社大明神(御毛沼命)であり、鬼八が再び祟りをなさないように足で踏みつけている。 鬼八は御毛沼命によって領土を侵略され殺戮された後、霜を降らせて凶作を起こしたという。これが鬼八の怨霊のせいだというのだ。 この鬼八の魂を鎮魂する祭りが猪掛け祭であり、そこで神主が笹を持って舞ったのが高千穂神楽の始まり、ともいわれる。
(写真右)天照大御神を祀る天岩戸神社にある天岩戸である。 |
【地固め】この世の不安定な大地を四人の神様が踏み固め、村人たちの種々願い成就を八百万の神々に感謝する。ほしやどん(舞人)が赤いタスキを掛けてますが、女性の帯で安産の呪術的意味です。 |
【御神体(護身体)】男女の面(おもてさま)を着面して、男女役の舞人が足を絡めて舞う。食事の準備〜酒盛り〜まぐわいまで舞います。 陰陽交合は万物の増殖儀礼、家庭円満です。身振り手振りがけっこうHで、見所は爆笑の渦でした。舞の後に見所へ神様が出ていらっしゃり、触れると御利益を授かるそうです。 |
【蛇切り】須佐之男命が八俣遠呂智(やまたのおろち)を退治した舞。高千穂神楽でも、この蛇切りがあるのは天岩戸神楽の特徴だそうです。写真は、オロチの尻尾から草那芸剣(くさなぎのつるぎ)を取り出したところです。 |
【柴引】太玉命が香具山より榊を引き来て、岩戸の前に飾る舞。この柴引きから『岩戸開き・岩戸五番』という。 岩戸開きの伝承を演ずる神楽を『岩戸目標の神楽』といい、これを舞い納めることで神楽奉納が成就するという編成をとっている。 |
【手力】手力男命、大幣を持って天照大御神の隠れた岩屋を探す舞。 |
【鈿女】天鈿女命(天宇受売命)が天照大御神の隠れた岩戸前で舞う舞。古事記などでは舞に八百万の神々から爆笑が起こったとあるが、このお神楽の舞はちょうど能の序之舞のように気品に満ちた美しく静かな舞いであった。 |
【戸取り】手力男命が、天照大御神の隠れた岩戸の扉を取り払う舞い。 |
【舞開き】思兼命が天照大御神の神手を取り連れ出し給う舞い。神官さんが神庭(こうにわ=舞台)の神棚に向かって、天照大御神がお出ましになられた感謝の拝礼をされていらっしゃる。 |
左【繰下】、右【雲下】外注連と内注連を糸で結んで神渡ししてある、その糸を引いて神送りするフィナーレの舞い。 神庭に吊るしてあった五色の天蓋が紙吹雪と共に、下がってくる。高天原と、恵みの雨を意味するという。 |
【参考文献】 「高千穂の夜神楽」 (高千穂町教育委員会) 「宮崎の神楽」 (山口保明著;みやざき文庫) 「天皇家のふるさと日向をゆく」(梅原猛著;新潮社) |
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Last Updated 2009-12-29