熱田神宮では、境内の御田神社御田植祭において田舞が奉納され、田植えは境外氷上姉子神社に隣接した大高斎田で斎行される。実際に植えた苗が生育した三ヵ月後の九月、抜穂祭において収穫される。一年を稲の生育・成長・収穫と共に歩む農耕社会基調の神社において、各種農耕祭祀は重要な儀式である。 さて、御田植祭が斎行される御田神社の御祭神は大年神をお祀りしている。この大年神という神様には多様な面がある。日本の神々の系譜では『古事記』において、「大山津見神の女、名は神大市比売を娶して生める子は、大年神。次に宇迦之御魂神。」として、須佐之男命の子として登場する。大年神は別名、“歳徳神”とも云うが、この呼び方は陰陽道に由来する。牛頭天王の妃となって、八将軍を生んだとされている。この歳徳神は民俗神として民間信仰では呼び方も意味も多い。年徳神、お正月様、恵方神など様様である。お正月とは、新年に吉と福をもたらしてくれる福神の来訪神という意味である。お正月の松飾や鏡餅も、このお正月様を祀る習俗からきている。この年神の“トシ”は時間区分の「年」であり、稔りを意味する稔(とし)である。古くは年も稲も共に“とし”と呼んでいたそうで、故に“トシカミ”は穀物の霊、稲魂から発達した農耕神である。 民間信仰では既にUPしてある、【日本!(お神楽)】〜No.14の長野県阿南町の「新野の雪祭」で“幸法”として穀霊は現れる。ここの田楽では、田楽衆がササラなどの楽器で穀霊を遊ばせる。ぜひそちらのUPも御高覧下さい。 大年神は男神のようでもあるが、穀霊・農耕神の多くは女神と考えられる。大年神でも陰陽道で歳徳神と名乗るようになると、牛頭天王の妃となって子を成すのだから、言うに及ばない。日本の神々の宇迦之御魂神、大気津比売神や豊受大神は、みな女神である。穀物の大地からの生育が、女性の出産にも例えられるからであろう。 で御田神社の田舞であるが、御祭神の大年神への奉納と考えるのだろうか。大年神が男神なら、美しい巫女さんの舞は神威亢進するだろう。しかし穀霊一般を女神と考えるなら、巫女さんは穀霊という精霊が化現した姿と思ってよいだろう。すなわち巫女さんは穀霊そのものである。美しい穀霊が陪従の田歌に合わせて田舞を舞う。陪従は精霊を呼び降ろす法者である。 巫女さんは頭に芙蓉の挿頭花を付けて舞う。芙蓉の花でも、“酔芙蓉”ではなかろうか。むろん造花であるから形態的に詳細は不明であるが、私的には酔芙蓉と思いたい。酔芙蓉とは、白から赤へ酒に酔ったように花の色が変化することから名付けられている。熱田神宮相殿に祀られている須佐之男命が八俣大蛇退治をして、草薙剣を取り出すのに一役買ったのが酒である。そして酒は米である。取り出された草薙剣こそ、熱田神宮の御神体である。 今年の御田植祭は梅雨の間ながらも、祭典の間だけ雨が止み、誠にありがたいことでした。 |
《参考文献》 【古事記】岩波文庫 【目でみる民俗神】萩原秀三郎、東京美術 【すぐわかる日本の神々】鎌田東二監修、東京美術 |
■熱田神宮 御田神社御田植祭
撮影場所&日;名古屋市熱田区神宮、平成18(2006)年6月18日 斎館前に整列後、御田神社へ参進される。斎田に植えられる玉苗が神前に供され、神事が斎行される。苗には丈夫で良い稲に生育するよう、強い呪力ある穀霊が憑霊する。 |
■熱田神宮 大高斎田御田植祭
撮影場所&日;名古屋市緑区大高、氷上姉子神社、平成18(2006)年6月25日 熱田神宮御田神社御田植祭で呪力のパワーアップした穀霊が憑霊した苗が、早乙女によって植えられる。早乙女は田歌に合わせて畔で踊り、やがて斎田に入る。田植えの時も田歌に合わせて、植えつけていく。動作が揃って美しい。 |
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Last Updated 2010-06-10