撮影場所&日;三重県伊勢市伊勢神宮、平成18(2006)年7月23日
撮影機材;Nikon D70s+24−120mmF3.5-5.6、80−200mmF2.8
昨年から平成25(2013)年、第62回式年遷宮に向けての行事が始まっている。
最初の山口祭から数えて8番目の行事に、『御木曳行事』がある。お木曳行事には、陸を曳く陸曳と、五十鈴川の中を曳く川曳とがあり、今回奉拝・撮影してきたのは川曳である。この川曳では宇治橋の下流1.2Kmの地点から出発して五十鈴川を遡上、宇治橋直下まで御用材を曳いて、神域に入る。曳き手は旧神領(伊勢市、二見町、御薗村)の神領民であり、本年は7月に四日間行なわれる。私が訪れた日には未だ梅雨は明けておらず、増水した川の中での曳きは大変そうであった。
この一連の行事を経て遷宮が行なわれるのだが、この遷宮が何時から行なわれていたか、最も確かな記録では持統四(690)年だという(※1)。行事の種類や数が現代においても当初と同じか変化しているのか、不勉強なので不明だが、川曳とは皇大神宮以前の伊勢大神の幽現の様式を残しているように思う。天照大御神以前のイセの大神は天つ神であり、日も風も雷の神様でもあった。そのカミが天から降りてくる天降の順序は次のようであった。「山頂に降りたカミは人々が用意しておいた常緑樹(御蔭木)に霊魂が依り憑く(憑依)。人々は憑依した木を川の近くまで引っ張っていく(御蔭引き)。するとカミは木から離れて川の中に潜り、姿を現す(幽現)。このようにしてカミは地上に現れ、御蔭(御生)する。このカミを祀る巫女は川の流れの中に身を潜らせ、御生するカミを川の中からすくい上げる(神の一夜妻)。(※2)」御木曳する御用材は正宮や別宮の棟持柱などにあてられる「役木」であり、御神体を納めたり御神体そのものではないから、このカミの御蔭を当て嵌めるのは考えすぎかもしれない。あるいは御用材の禊という意味の行事かもしれない。
いづれにせよ御用材とはいえ、川の中を木材を曳いて神域まで入るという非合理的行為には、その背後に神々の世界への“何か”が隠されていることは確かであろう。
(※1)【伊勢神宮】櫻井勝之進、学生社、P.167
(※2)【アマテラスの誕生】筑紫申真、講談社学術文庫、P.33
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