上写真:興玉神祭
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神嘗祭は毎年10月15日夕刻の興玉神祭、御ト(みうら)を皮切りに、外宮・内宮の由貴夕大御饌、由貴朝大御饌や奉幣を経て、25日まで摂社末社でも斎行される。神宮内だけでなく伊勢市民はこの時、「伊勢の大まつり」と呼んで市内でイベントや初穂曳きの陸曳き、川曳きで新穀を奉納するなど、大々的に祝う。この神嘗祭の重要性は、農耕生活や神道的世界を忘れがちな日本人には思いもよらない。伊勢神宮では年間に1600もの祭祀が斎行されるという。大きな祭祀では祈年祭、風日祈祭、抜穂祭に月次祭。そして神嘗祭に新嘗祭、、、。数々の祭祀の中でも神嘗祭は最重儀である。神嘗祭は、その年に採れた新穀を、まず天皇陛下が大神様に献上召し上がって戴く祭りである。すなわち一年を通して豊穣の祈願を行なってきた祭祀の結果が新穀の収穫という結果として結実し、その感謝が神嘗祭である。神嘗祭は大々的に祝うことから、「神宮のお正月」ともいう。お正月とは本来は年神(歳徳神)を迎え、その神を祀る時であるが、年神は新しい年の幸福と豊穣をもたらしてくれる神様だから、幾分か民間信仰的であるが、新穀は年神様が福を運んで来たというお正月とダブルのであろう。そして年神様がやって来たのは、神宮の神々の神威の発揚のおかげであるということでもあろう。
今回撮影させて頂いたのは、神嘗祭の興玉神祭と、御トの参進・退下である(御トの神事自体は撮影禁止)。御トは御正殿で午後5時斎行であるから、時季によって光の具合が異なる。特に神嘗祭の時、退下されるのは午後5時40分くらいで、かなり暗くなっている。その薄暗い境内で祭主さんの緋袴や、神職さんの浄衣が妖しくも美しい。その美しさは、厳格さ、格式や清浄さの昇華した夢幻的な美しさである。
撮影はノーフラッシュ、D80+85mmF1.8単玉レンズで、ISO1250でも1/60〜80秒、f2.2というけっこう厳しい条件であった。D80のみは一脚を使用して、D70sは手持ち撮影した。
《参考文献》 所功著【伊勢神宮】講談社学術文庫
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