日本!
No.27 三河 鳥羽の火祭り
撮影場所&日;愛知県幡豆町鳥羽、神明社、平成19(2007)年3月4日(本来は2月第二日曜)
撮影機材;Nikon D80+VR18−200mm、D70s+SIGMA18-50mmF2.8
現地情報;禊は15時に神社を出発。火祭りは19時半開始。駐車場、屋台有り。

二基の大松明を現地では「すずみ」と呼ぶ。この炎上する「すずみ」に仕込まれた神木と十二縄を、「福地」と「乾地」のどちらが早く取り出し神前に供えるかで、その年の農作物の出来不出来を卜(うらなう)行事である。西側の「福地」が勝てば山間部に豊作が、東の「乾地」が勝つと旱魃などで不作になるという。今年は福地が勝って豊作との卜い結果であった。それはともかく、炎上する「すずみ」に70人程の奉仕者が次々と果敢に挑む姿は、勇壮かつ戦慄するような劇性がある。木綿でできた防火服に頭巾をかぶる装束は、神社の幟を再利用して作られる。頭巾が猫の耳の形によく似ていることから、奉仕者は「猫」と呼ばれる。
農作物の豊凶の卜事(うらないごと)は、神事の宗源(※1)と言われるのは、神意を伺い神託を告げるのが神事の根源であったからであろう。愛知県内の神社で行なわれるト的行事としては、熱田神宮や真清田神社における「歩射神事」、砥鹿神社の「粥占」などがある。しかし一般氏子が奉仕者として炎に突入していく ト行事は珍しいのではなかろうか。
では何故、炎なのか?という疑問が出るだろう。単なる肝試しではないはずだ。何らかのテキストが参考になったのではあるまいか。
ただし起源や由緒録などは焼失しており、全く残っていないそうだ。、、、、、以下は研究を主とするのではなく、アマチュア・カメラマンとしての私が想像したことである。
炎の中から神木が出てくるとは、炎の中からの神の誕生、御生れである。炎の中から誕生する神といえば、邇邇芸命と木花之佐久夜毘売の子である、火照命(海佐知毘古;海幸彦)と火遠理命(山佐知毘古;山幸彦)がいる。懐妊を疑われた木花之佐久夜毘売が火の中で出産したのは一種の誓約(うけい)で、身の潔白を証明するには危険度が高いほど真実性が高いということだ。奉仕者の「猫」が炎に飛び込んでいくのは、生死を賭ける事で結果の確実性を高め確定しようという、一種の誓約(うけい)とも考えられる。或いは、生死を賭けることで一種強制的に神意を引き出そうとする呪術性とも考えられる。山幸彦・海幸彦の誕生からその後の話は『古事記』にみられるが(※2)、その後の二人(二柱)は海幸彦が山幸彦にかけられた呪いで災厄・凶作に悩まされて、海幸彦は山幸彦に屈服してしまう。美田を得て豊作に恵まれるようになった山幸彦は吉で、海幸彦は凶である。山幸彦は別名、天津日高日子穂穂手見命(※3)といい、日神(日の神)の嫡流として美称「天津」と「日子」、稲穂が出て現れるさまを表す「穂穂手(出)」それに神霊の尊称である「見(霊)」からなる神様だ。よって、「福地」=「山幸彦」=「稲の神様」=「豊作」という図式が成り立つと思う。鳥羽の地は、目の前に三河湾が広がっている。山幸彦・海幸彦の話を当て嵌めるには、ピッタリのロケーションである。このように、鳥羽の火祭りは『古事記』の一神話を題材にして作られた卜い行事であると、私は想像する。

(※1)【神道行法の本】学研、ブックスエソテリカ36、P.156
(※2)【古事記】岩波文庫、P.70
(※3)【日本の神々の事典】学研、P.113

■禊


■火祭り




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Last Updated  2010-06-10