日本!
No.41 節分(吉田神社・平安神宮)
撮影機材;Nikon D300+VR18-200mm、D80+SIGMA10-20mm

立春の前日、節変わりの新しい季節を迎える節目には、陰陽のバランスが崩れて疫鬼などが跳梁跋扈するという。鬼とは元々は目に見えないで災疫をおこす祟りや邪気などの穢れであり、これを祓うことは朝廷にとって重大事案であった。なぜなら穢れの元は政争や左遷などで憤怒のうちに朝廷や天皇を呪詛しながら憤死した怨念で、それが悪霊となって天変地異を起こし、国家を転覆させる事態になったら一大事であるからだ。この目に見えない怨霊を鬼と称し、この疫鬼を祓うことこそ朝廷が構築した呪術的手法が「追儺」である。平安京において朝廷と民が鬼と称する怨霊や疫神を攘する儀礼祭祀こそが、日本の全国に伝承されている民間宗教や民俗芸能のルーツだと思うので、この平安京において行われていた儀礼祭祀を撮影することは私的には重要であった。その儀礼とは民においては『やすらい花(祭り) 』であり、朝廷の『追儺之儀(または大儺之儀)』であると思う。『やすらい花(祭り)』は、桜の花の散るころに疫神が民を疫病を起こすとして春に行われるのは既に拙HPにおいてUPしてある通りである。朝廷において『追儺之儀』は十二月大晦日に行われていたようだ。その儀式の斎行に重要なポジションにいたのが、陰陽師である。陰陽師が「追儺の祭文」を奏上してから大舎人が扮する四つ目の面の方相氏が登場する。そして目に見えない疫神を内裏内部から大内裏外へ、そして京外へと駆逐していく。その時に祭文で云う処の大儺の公とか小儺の公とかは、方相氏と彼に従う童(シンシ)を指すが、これは陰陽師の使役神である式神にイメージが重複する。陰陽師自身は祭文を奏上するだけであるが、実は式神を操ってその呪術的パワーを発揮しているのである。この陰陽師が祭文を奏上するシーンは、吉田神社さんでも平安神宮さんでも再現されている。その陰陽師が奏上する「追儺の祭文」には、手法の段階が四段階あると記載されている。最初の二段は陰陽道系の神々に守護を願う祭文。次の三段目は、疫鬼に山海の宝物を供物としてあげるから去るようになだめる段。そして四段目は、三段目で去らない鬼は徹底的に誅殺すると脅す段である。つまり一旦は和平案を出すが、聞かなければ徹底的交戦すると宣戦布告しているのだ。この和平案と交戦案を「饗応祭祀」と云う。この饗応祭祀は面白いことに、奥三河の湯立神楽である『花祭 』においても行われている。「五穀
祭り」「外道狩り」「龍王(しずめ)」などが、それに相当する。それは舞が一通り終わった後に、舞処から立ち去らない諸霊諸神を追い払うのである。平安時代に朝廷で行われていた『追儺之儀(または大儺之儀)』の手法が、陰陽師から修験者などへ長い歳月の間に伝わり、それが花祭など民俗芸能に影響を残していることは、十分に考えられる。そのようなことから、奉拝・撮影してきた方相氏の追儺は種々の理解にも重要で、ぜひ撮影しなければならなかった。平安神宮の大儺之儀は昭和49年に時代考証によって細部まで復元された儀礼であるが、貴重な祭祀であることに変わりは無い。

《参考文献》
【安陪晴明と陰陽道の秘術】別冊歴史読本、新人物往来社


■ 吉田神社 節分祭 『追儺式』18時〜
撮影場所&日;京都市左京区、平成20(2008)年2月2日

上左右写真;夕刻、境内で鬼が暴れていた。

上写真2枚;方相氏が悪鬼を追い払う

上写真;大元宮の本殿周囲を周回する


■ 平安神宮  節分祭 『大儺之儀』14時〜
撮影場所&日;京都市左京区、平成20(2008)年2月3日

上左右写真;陰陽師が祭文を奏上すると、方相氏がパワーを誇示する。

上写真;上卿が北東・北西に桃の弓で葦の矢を射る。葦の生命力に霊的パワーがある。

上写真;大極殿下斎場から応天門へ向かう。

上写真左右;応天門南側にて。

上写真;桃の弓で葦の矢を射る。

上写真;殿上人が桃の杖で祓う。桃には悪霊を祓うパワーがある。

上写真 ■鬼の舞(大極殿と境内)15時〜
いったん追い払われたはずの鬼の生き残りが登場する。その鬼は、民の豆撒きで退散する。豆撒きとは、穀物の呪力を借りて邪なるものを退散せしめる「打ちまき」という陰陽道の呪法を伝えるものである。豆撒きには福男福女だけでなく、舞妓さんも加わっていた。

上写真左右 ■大火焚神事(龍尾壇下斎場)16時〜
護摩木を二基の火床に焚きくべて、諸願成就を祈願する。鬼が追い祓われた清浄な境内で斎行されるのである。


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Last Updated  2010-06-10