撮影場所&日;滋賀県長浜市川道、平成20(2008)年2月23日
撮影機材;Nikon D300+VR18-200mm、D80+SIGMA10-20mm
現地情報;献鏡屋台は当屋を20時20分頃出発。当屋内の撮影は、要許可。
川道神社(滋賀県長浜市)にオコナイ(民間神事)の御鏡餅が献鏡(奉納)された。川道には七つの「村(「庄司ともいう)」という組が有って、それぞれ30〜50戸から成っている。下村・東庄司村・川原村・藤ノ木村・中村・東村そして西村のそれぞれの組で、一俵を使い完成重量が約90Kgにもなる巨大な御鏡餅を搗く。そして宵宮に屋台に仕込んで、川道神社へ献鏡(奉納)するのである。屋台は提灯で荘厳され、「若い衆」が担ぐ。屋台ばかりに目が行くが、行列は先高張・棒張・御神酒・御鏡・火方・大太鼓・弓張・小太鼓そして鉦という立派な編成である。七つの「村・庄司」が拝殿への献鏡の早い遅いが不公平にならないように、毎年のローテーションで変わってくる。神社前では、いったん境内に各組の御鏡餅屋台が集合する。
今回は折からの雪中での献鏡行列となり、素晴らしいシーンが展開した。何箇所かの当屋(当番さんの家)を訪問させて頂いたが、当屋においても行列も大変に熱気を帯びていた。
では何故、御鏡餅なのか、、、まず餅に関してだが、稲荷(伊奈利)社の起源を綴った『山城国風土記逸文』の抜粋を書かれた寺川氏の文(※)を引用してみる。それによると、「伊呂具の秦の公という人は、稲を沢山収穫し裕福だった。そこで餅を作って弓の的としたところ、餅は白鳥となって空に飛んで行き山の峰に降りて、そこに稲を生やしました。稲が生えたので、そこに社を設けて祭り、稲生(いなり)と名付けました。」 ここでは稲荷ではなく、餅が白鳥に姿を変える点も面白い。モチの“チ”とは、生命力・霊力を現す語であるという。そして白鳥も霊力があるだけでなく、遊離魂ともみられる霊魂観があるのだという。つまり餅は霊力そして魂が目に見える形になったものであるのだ。鏡餅という上から見て丸い玉状の形態についてであるが、、、玉のタマとは、やはり遊離魂と生命霊の言葉である。神様の名前で例えば穀霊(稲霊)の「倉稲魂」を「ウガノミタマ」と呼ぶことでも判る。この「タマ」は、呪物崇拝(フェティシズム)で八坂瓊曲玉や八咫鏡など御神宝の形状などでも表現されている。御神器の形状は、むろん古墳出土の遺品から推測するのみであるが。餅を上から見た形状で丸にするのは、餅自体の霊的呪力(じゅりょく)に更に形態でも呪力を与える、日本呪術史的にもよくみられるパワーの重ね呪法である。
川道のオコナイのみに見られる「カボ」とよばれる具について述べたい。カボとは火防(かぼう)を意味する道具である。カボは、御鏡餅を献鏡する屋台の提灯から出火した場合、これを使って火消しをする道具である。カボからは左右二体の藁人形が下がっているが、左右二体が男女になっていて、男は唐辛子で、女は貝殻で性器を表現して付けられているともいう。が、西村では二体とも男性であって、女性は見られなかった。伺ったが、以前からそうであって、なぜ男・男であるか不明だという。一方、東庄司の当屋では男女があったが、女性器は貝殻ではなく、唐辛子を折り曲げて表現してあった。
なぜカボという道具に男女の藁人形を付けるのか?はたまた、このカボは実用的なのか、それとも呪具的なアイテムなのか?火が出た場合、本当に消せるのか、、。想像は膨らむ。滋賀県には山ノ神祭において、木の枝で「オッタイ(男)・メタイ(女)」を作って交合させる儀式を行う所(上砥山)がある。交合が豊穣の象徴として捉えられているのだが、同様な発想が火消しの道具に付いているとしたら面白い。男女の仲睦まじい間に火種は立たずとうことか(汗)。火が立って災いをなす事も、豊穣のパワーによって打ち消される、ということだろう。なら、西村の男・男は???交合による豊穣パワーではなく、祓いで男・男だと舞楽の祓いの舞である【振鉾】を連想するが、西村のカボは悪霊・邪気祓いとしての剣的なパワーの呪具となっているのかもしれない。
◎撮影に当って、川道の皆様に感謝申し上げます。
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《参考文献》
(※)『稲荷社の二つのいわれ』寺川眞知夫〜【大伊奈利】第172号;伏見稲荷大社講務本庁
【日本語に探る古代信仰】土橋寛;中公新書
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