日本!(近江の祭・火祭)
No.64 長濱八幡宮「蛇の舞」神事
■滋賀県長浜市宮前町、令和4(2022)年08月撮影

夜、長濱八幡宮(滋賀県長浜市)で斎行される「蛇の舞神事」 の奉拝、撮影。 これは長濱八幡宮内の方生池で龍が舞う、雨乞いの神事である。

この「蛇の舞」は長浜市永久寺の「蛇組」の人達によって 奉納されるのだが、その「蛇(龍)の舞」には、その前段に なるエピソード語られている、、、永久寺に住む或る男が 嫁をもらった。やがて姑と諍いが絶えなくなり、ある日 嫁が家を飛び出すと近くの川に身を投げてしまった。男は 慌てて追いかけて嫁が身を投げた淵を見ると、龍となった 嫁が昇天するところであった。驚いた男は自ら、龍の首を 彫み近所の神社に奉納した。そして旱魃の折には神前にて 龍の舞を舞うようになった、、、のだそうだ。

このエピソードには、嫁の自死と雨乞いの関係性が希薄で 結び付け難い。 この話、つまり嫁が身を投げた淵から龍が現れた、という 話は、『近江の民話』(中島千恵子氏編;未来社)に昔話 として収められている。 つまり湖北の昔話が、永久寺の雨乞いの龍の舞に習合した のではないかと思うのだ。 この嫁は元々は龍だったのが自死で龍の正体を現したのなら その結婚は人と龍の異類婚だったわけで、それは民俗的には 「蛇嫁入」と呼ばれるものである。 そうではなく嫁は人だったのが、龍と化して昇天したのか それは不明だ。

この「蛇(龍)の舞」は、玉龍・竹龍・火龍 の三幕から 成っているが、最初の 玉龍 では 海女の持つ 玉 を龍が奪おう と舞う。この海女は弁財天、あるいは龍宮の龍女であろうし、 玉は 如意宝珠であろう。龍は如意宝珠を持つことで、雨乞い 日乞いなど水をコントロールする呪力を持つことが出来るのだ。

嫁が龍の正体を現したことで、現世に残った夫は龍の祭具を 通して龍神の玉のパワーを具現化する能力を得、雨乞いの 儀式で雨を呼ぶことが出来るようになった、ということだろう。 この玉というものは、例えば琵琶湖北側の余呉湖では龍の 目玉として登場して、万病を治す呪力の呪具として登場して いる。 湖北には龍神を扱った奇譚や、雨乞いの儀式が点在している。 同じように蛇(龍)の舞は、現在では行われていないが、 米原町礒、米原町梅が原、蒲生町市子川原などでも有った ようだ。

他所では廃絶した「蛇の舞」が伝承されている 永久寺町の舞 は貴重な存在である。 なおこの「蛇の舞」は残る古い記録では延享4(1747)の 年号が木箱に墨書きされているとのことで、始まりは更に 遡ることであろう。その当時は永久寺町の八坂神社で行われ ており、長濱八幡宮では今回が73回目の奉納ということである。

舞がスペクタクルで見応えが有るというだけでなく、雨乞いの 民俗的呪術性や近江の昔話との関連からも、大変に興味深い 「蛇の舞」であった。


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Last Updated  2022-09-12